①タイレーツくんのなぞ
タイレーツというポケモンは、変な奴らが多いガラル地方でも屈指の謎生物と言っていいだろう。6匹で1匹という異様な構成、謎すぎるタイプ、全体的に奇抜すぎる見た目...我々は、あまりにもこのポケモンのことを知らない...しかし、この不思議な生命体について長く調査を続けた我々は、遂にその真の正体を突き止めた。
まず、タイレーツのモチーフはなんぞかと、Google先生にお伺いを立てると、どうもギリシャのファランクス、特にスパルタ兵をモチーフにしているらしいとのお返事が返ってきた。でも、本当に?
なるほど、彼らのフォルムは、どことなくスパルタ兵の兜に似ているような気もする。でも、逆に言えば、彼らのスパルタン要素なんて、それくらいしかないのではなかろうか?
②タイレーツくんの見た目について
詳しく見ていこう、まず、彼らは縦一列に並んでいるが、これはファランクスとしてはおかしい。もちろん、ファランクス陣形とて縦の厚みは大切である。例えば、紀元前371年に発生したレウクトラの戦いでは、より縦に厚みをつけたテーベ軍が、最強を謳われたスパルタ軍を打ち破ったし、さらに言えば、ファランクスの最小単位自体は縦隊だ。しかし、ファランクスという隊形の一般的イメージが横列に凝縮されていることもまた異論の無いところだ。少なくとも、ファランクスという概念を一般化して前面に押し出したいならば、その隊形は、縦ではあり得ないのである。
次に、彼らの持つ盾(らしきもの)についても見てみよう。彼らの盾は、円形で、かつ中央に剣のような突起物が突き出している。もしかしたら、この盾の姿形には、見覚えがある人も多いかもしれない。うん、これ、ダークソウルシリーズのカタリナ騎士が持ってるアレそのままだよね。
かわいくて、かっこいい
というわけで、この種の盾自体は実在するし、歴史上用いられた。だがしかし、これを、タイレーツが、少なくとも古代ギリシャの歩兵をモチーフにしたキャラクターが持つのはおかしい。
このような盾の中心に設けられた突起物は、一般に盾芯と呼ばれ、敵の攻撃を受け流す効果を期待された。基本的には丸みを帯びたものが多く、尖っている例は少ない。ともあれ、大切なことは、この盾芯という構造は、中世西ヨーロッパにおいて大々的に利用されたものだという事実だ。古代南東ヨーロッパではない。さらに言えば、タイレーツがもつような尖った盾芯は、特にノルマン人やヴァイキングなどのゲルマン人、つまり現在のイギリスや北欧に住した人々が好んで用いたとされる。すなわち、この盾は、古代ギリシャでギリシャ人達が構えるにはあまりにも似つかわしく無い種類のものなのだ。
ちなみに、似た種類の盾としてはアガーダというものが存在する。こちらはより小型の盾に、やや長い短剣を合わせたもので、盾芯のような攻撃を受け流すといった目的ではなく、積極的な攻撃手段として用いられたらしいが、これもまた中世北アフリカで生まれたもので、やはり古代ギリシャとは関係が薄い。
というか、盾の種類がなんであれ両手に盾はないだろ。
以上のことから、タイレーツの姿形は、それが古代ギリシャをモチーフにしたというには、いささか矛盾の多い代物であることはお分かりになったと思う。
③タイレーツくんの設定について
外面だけでポケモンを判断するなというのは当然である、というわけで、次はタイレーツの中身について見ていこう。とはいえ、剣盾で初登場のタイレーツには大した設定もなく、特徴らしい特徴と言えるのは、その専用技「はいすいのじん」くらいのものだ。そして、このはいすいのじんこそが問題の要なのだ。
そう、はいすいのじん、もとい背水の陣というのは、古代中国の名将、韓信が陳余と決戦に臨んだ際、川を背後に自軍を配置して士気を高めてこれを大いに破った故事に由来しているのだ!実は中国はギリシャではない。
つまり、彼らの最大にしてほとんど唯一の特徴とも言える専用技には、ギリシャのギの字もないのである!!!
ここまでくると、むしろ彼らがスパルタ兵モチーフであるという積極的な理由を見つける方が難しくなってくるのでは無いだろうか?
更に言えば、仮にタイレーツが古代ギリシャ人だったとしても、それが、イギリスをモチーフにしたガラル地方に登場する理由は全くないのである!後に大英帝国は世界最強の名をほしいままにしたとは言え、スパルタ全盛期ごろ(BC400〜)のブリテン島は未だ竜と妖精の住まう御伽の国に過ぎない。
④タイレーツくんの問題点まとめ
以上のことから、タイレーツを構成する多くの要素が、古代ギリシャ人とはかけ離れていることがおわかりいただけたと思う。
タイレーツのあり方は、一見なにか特定の軍事集団を表しているように見えながらも、その実、時代も、地域もバラバラな歴史の断片の寄せ集めに過ぎない。この乱雑なまとまりの中から、一つのしっかりとした世界史的モチーフを見出すことは不可能と言っていいだろう。
ここで疑問が生じる。このポケモンのモチーフは、本当に人間が歴史上生み出してきたものなのだろうか?この、歴史趣味者がいかにも好みそうな、無作為で、断片的なたくさんの要素は、その本質を覆い隠すために、ペタペタと貼り付けられた、ハリボテに過ぎないのでは無いだろうか?我々は、表層だけを見て、満足していたのではないだろうか...?
タイレーツのモチーフは、もっと別の、まったく違うところに、転がっているのではないだろうか...?より深い、歴史の奥に、もはやそれが歴史とすら呼べないような、悠久の時間の流れの、奥の奥に...
そう考えた私は、10分くらいのあまりにも長い長い探索の果てに、タイレーツの真の正体と思しき存在の究明に成功した。
④タイレーツくんの正体
そう、その正体とは...!!!!!!!!!!
この、ミクロディクティオンである!!!!
↑これ
待ってほしい。ちょっとだけ話を聞いて欲しい、これはネタでもなんでもなく、マジのやつである(マジ)
このミクロディクティオンという生物は、カンブリア紀(だいたい5億年前)の地球に生息していた葉足動物の仲間である。あのハルキゲニアの親戚といえば、聞き覚えのある人も多いのでは無いだろうか。
で、この見た目がちょっと似てるだけな気がする古代のキモいゴカイもどきのどこがタイレーツなのか、これから説明していきたい。
まず、この生き物の特異な点は、柔らかい体の節々に、小さな丸い、盾のような甲皮を備えていることである。つまり、上の画像で言えば、青いやわらかい部分の外側に、赤く丸い盾が点々と両側にあるのが見えるだろう。これはもう完全にタイレーツである。なんならタイレーツが両手に盾を持っている理由もこれで説明できる。
「でも、こいつは1匹の生物であって、6匹1組のタイレーツとは根本的に違うだろ!」と憤激なさる方もおられよう、ごもっともだ。
しかし、実はこのミクロディクティオン、発見当時は、側面の小さな盾一つ一つが個別の生物であると考えられていたのである。それが、後に盾がいっぱい集まってでかいイモムシになると気づかれたのだ。なんなら、ミクロディクティオンという名前自体も、本来はこの盾に対して付けられたものであり、後に、これがより大きな生物の部品にすぎないことがわかったために、その生物に流用されたに過ぎない。
つまり、タイレーツの6匹で1匹という構成は、このようなミクロディクティオンが生物として成立した経緯を表しているのだ!
盾から飛び出した突起物については、ハルキゲニアやディアニア(通称サボテンモンスター)といった同時代の葉足類仲間の特徴を引き継いだものと見れば良いだろう。
以上のことから、タイレーツの特徴の多くの部分が、この奇妙な生物にも当てはまることがわかる。
しかし、疑い深い諸君はなおもこう言うかもしれない「こいつだってイギリスとはなんの関係もないだろ!」と。確かに、こいつの発見地はチェンジャン、つまり中国であり、ブリテン島では無い。しかし、この生き物と、ガラル地方には確かな繋がりがあるのだ。
カンブリア、という言葉は、皆さん一度くらい聞いたことがあるだろう、カンブリア紀、カンブリア宮殿...地学の授業をある程度まともに受けるか、テレビをそれなりに見るか、そうでなくとも、その名はあまりにも有名だ。しかし、このカンブリアの由来については、意外なほど知られていない。この語は、現在も地球上に存在する、とある地方のラテン語名である。その地方とは...何を隠そう、かのウェールズ地方だ。
そう、ポケモン剣盾の舞台となった、ガラル地方がモチーフとしている、まさにその場所なのである!!!!!!カンブリアとガラル地方には、深い関係性が存在するのだ!!!!!!!!!
これだけでも充分な繋がりと言えるだろうが、更にダメ押しをしておこう。タイレーツが出現するのは、ワイルドエリアとかいう生態系壊滅済み化け物パーティ会場を除けば、8番道路のみだ。
そして、8番道路のモチーフは、シェロップ・シャーである、と言われているが、それは一体どこなのだろうか?
これを見て欲しい
...シェロップ・シャー自体はイングランドに属しているものの、ウェールズ地方のピッタリ東に位置することがわかる。そして、今のところガラル地方には明確にウェールズ地方をモチーフとした場所が確認されていない以上、8番道路が、最もガラルにおいてウェールズそのものに近い場所なのである。そんな場所にのみ、タイレーツは現れるのだ......。もう、これ以上言葉を重ねる必要はあるまい。
よって、ここに結論づける。ポケットモンスター・ソード・シールドに登場するポケモン、タイレーツの真のモチーフは、カンブリア紀の葉足動物、ミクロディクティオンである!!!!
⑤まとめ
正直すまんかった
でも、ガラル化石枠は絶対カンブリアだと思ってたのに意味わからん改造生物に取られたから、どっかにカンブリアネタが仕込まれててもいいと思うんだ